2018年2月21日水曜日

木の上で暮らす人

 木の上に家を作ってのんびり暮らしている人がいました。ターザンのようにロープにぶら下がって、山のあちこちへ散歩に出かけました。
 ある日、 ロープが切れて地面に落ちたとき、頭を強く打ったのが原因で、自分がアフリカのジャングルに暮らしているという妄想を持つようになりました。
「さあ、今日はワニを捕えて、ステ-キにして食べよう」
 さっそく朝早くから出かけて行きました。
 川へ行くと、魚ばかり泳いでいてワニなんかいません。岩のところにトカゲが一匹はっていましたが、ワニにしては小さすぎます。
「困ったな。ステーキが食べられない」
 思っていると、林の中からイノシシが出てきました。 
「わあ、トラだ。逃げないと」
 イノシシに追いかけられて、やっとのおもいで木の上へ逃げました。別の川へ行ってみました。
川のそばでテントを張ってキャンプをしている人たちがいました。
 釣った魚を網で焼いていました。
「密猟者だな。近頃、ゾウの姿をまったく見かけなくなった」
ロープによじ登って、木の上からテントめがけて飛びかかりました。
「なんだ、あいつはー!」
キャンプにやってきた人たちは、みんなびっくりしてその場から逃げだしました。
 テントを押し倒して、荷物を全部川へ投げ捨てました。
 密猟者を退治すると家に帰って行きました。これから夕食の準備です。
食材は、春はワラビ、ゼンマイ、イタドリ、フキノトウ、秋は、ヤマブドウ、栗、アケビ、キノコ、山芋などでしたが、バナナもマンゴーもパイナップルもパパイヤもないことに気づきました。
「明日は果物を探しに行こう」
 翌朝、近くの農家へ行きました。でも、畑には白菜やダイコン、ホウレンソウ、ネギ、ニンジンばかりで、バナナもパイナップもマンゴーもパパイヤもありません。
「困ったな。どこかにないかなあ」
 ある日、遠出をして町へ行きました。大きなスーパーマーケットがありました。
食料品売り場へ行くと、いろんな果物が山のように売られていました。
「おいしそうだな。食べたいな」
思っていると、警備員がこちらへ向かって走ってきました。髭ぼうぼうで髪の毛がボサボサだったので、不審人物と間違えられて職務質問されると思いました。
でも違いました。食料品を万引きした男を追いかけていたのです。
「よーし、一緒に捕えよう」
いつも山の中を走り回っているので、万引き犯など捕まえるのは朝飯まえです。スーパーを出て500メートル先で男を捕まえました。
警備員と食料品店の店長から感謝されて、バスケットに山盛り入れた果物を貰いました。山へ帰ってからすぐに食べました。
 それからはたびたび町に行って、警備員のような仕事もするようになりました。
 ある日、動物園のそばを通りかかったとき、動物たちのなき声が聞こえてきました。
 動物園の中へ入ると、檻の中に動物たちが入れられていました。
「そうか。ジャングルの動物を見かけなくなったのは、こんなところに閉じ込められていたからなんだ」
 夜になってから動物園に忍び込んで檻の扉を開けることにしました。最初にゾウの檻へ行って扉を開けました。でも、ゾウはずいぶん年取っているので逃げようとしません。こんな年寄りではジャングルに帰ってからすぐに死んでしまいます。
 しかたがないので、ヒョウのいる檻へ行きました。扉を開けようとしたとき、飼育係に見つかってしまいました。
「こらあ、そこで何している」
 飼育係と取っ組み合いになって、しばらく檻の前で争っていましたが、ほかの飼育係もやってきたので、急いで塀によじ登って、事務所の屋根伝いを歩いていたとき、足が滑って地面に落ちてしまいました。頭を強く打って、気がついたら元通りの頭に戻っていました。飼育係に見逃してもらって山へ帰って行きました。それからは普通の暮らしをしているそうです。







(未発表童話です)




2018年2月9日金曜日

迷子になった雪女

 山で狩りをしていた雪女は、雪が激しくなってきたので家に帰ることにしました。
いつも山へ行くときは、ラジオで天気予報を聞いてから出かけましたが、電池が切れてその日は聞けなかったのです。
「今日の獲物は山鳥2羽だけど、仕方がないわ」
 帰り道で、ひどい吹雪になり、1メートル先も見えなくなりました。
「どうしよう、日が沈んでしまうわ」
 そのとき、雪道を走ってくる一台の車に気づきました。
「よかった、あの車に乗せてもらおう」
 車は、吹雪の中をゆっくり走ってきました。
 突然、視界に白い和服姿の中年のおばさんが見えたので急ブレーキを踏みました。タイヤが滑り、もう少しで横の田んぼに落ちるところした。
「危ねーじゃねえか。バカヤロー」
 それはタクシーで、お客をこの村まで送ってきた帰りでした。
運転手は、こんな真冬にコートも着ないで、夏の浴衣で歩いているおばさんにびっくりしました。
「お願いします。乗せてください」
雪女はずかずかと車の中に入ってきました。
「乗せてやってもいいけど、お金持ってるのかい」
「お金はないけど、山鳥を差し上げます」
雪女は、かちかちに凍った山鳥を見せました。
「それ、どうやって料理するんだい」
「羽を全部むしってから、内臓を取り出して蒸し焼きにすればいいんです」
「ニワトリみたいにやればいいんだな」
「だいたいそうです」
「鍋にもあうかな」
「もちろん、鍋に入れても美味しいですよ」
そんなわけでタクシーに乗せてもらいました。
「で、どこまで送るんだい」
「北の方角へ5キロほど行った山の洞窟です」
「そんな所に道路が走ってるのかい」
「細い道が通っています」
「雪で行けないよ」
「途中まででいいんです」
「じゃあ行ってみるか」
 タクシーは吹雪の中を走って行きました。
運転しながらうしろからひんやりと冷気が流れてくるので暖房を「強」にしました。
視界が悪く、雪も強まってきました。
「そろそろ山道だ。だいぶ積雪があるな」
「あと少しのところで結構です」
「じゃあ、500メートル行ったところで降ろすよ」
「ええ」
 ところが雪がさっきよりもひどくなり車はとうとう動けなくなりました。
「ダメだ。チェーン巻かないと」
「手伝いますよ」
「そうかい、じゃあ、後輪の2本巻いてくれないか」
 雪女は外に出ると作業を手伝いました。
「これで大丈夫だ。さあ、行こうか」
 吹雪の中をタクシーは登っていきました。
「ここで結構です。洞窟は近くですから」
「そうかい、じゃあ、気をつけて」
 雪女は雪の中に消えて行きました。タクシーは山を降りて行きました。
ところが途中で、さっきの雪女にばったり出会ったのです。
「どうしたんだね」
「場所を間違えました」
「え、ここじゃないのか」
 雪で視界が悪くて場所を間違えたそうです。
仕方なく、タクシーは雪女を乗せてまた山を登って行きました。でも吹雪のためなかなか見つからず、一晩中、山の中をさまよいました。
 そんなことで、洞窟を見つけたのは明け方近くでした。
すっかり疲れてしまったタクシーの運転手は、洞窟の中で雪女にお茶を入れてもらい、しばらく仮眠をとりました。
 






(未発表童話です)