2017年6月30日金曜日

ヤドカリの大冒険

 ヤドカリたちが浜の岩の上で日光浴をしていました。
「ああ、いい天気だなあ。こんな日はエサ探しはやめてのんびり昼寝だ」
 みんな日傘をさして寝そべっていました。
 一匹のヤドカリはこんなことを考えていました。
「眠っているなんてもったいない。むこうの原っぱへ遊びに行こう」
そういって、みんながいる岩から離れて砂の上を歩いていきました。
 やがて、草が生えている所までやってきました。
「道が原っぱの方まで続いているぞ、行ってみよう」
 しばらく歩いていくと、草の中から声が聞えてきました。
「見かけない顔だな。どこからやってきたんだ」
声をかけたのは一匹のカタツムリでした。
「おれは、海からやってきたんだ」
「どおりで、はじめて見るやつだと思った。きっと先祖は同じさ。これからどこへいくんだ」
「いや、暇なもんで、散歩がてらにやってきたんだ」
そんな話をしていると、木の上からミーン、ミーン、ミーンとセミが鳴きはじめました。
「ああ、また喧しくなる。セミたちのおかげで耳が遠くなって困っているのに」
 そのときでした。木の上からカブトムシが飛んできて切り株の上に着地しました。でも着地が下手くそで、切り株に頭を強く打ってしばらく気絶していました。
「大丈夫かい」
その声を聞いて、カブトムシは意識を取り戻しました。
「いや、失礼。へまなところを見られてしまった」
カブトムシはにこにこ笑いながら、いろいろ話しかけてきました。
「そうなのかい、木の樹液はそんなに美味しいのかい」
「そうだよ、少し飲んでいくか」
「ああ、少しいただこう」
 カブトムシは木の幹を登っていくと樹液が出ているところへいき、バケツに樹液を入れて降りてきました。
「たっぷり飲んだらいいよ」
「うひぇ、苦くて飲めないよ」
「口に合わないかい、うまいのになあ」
「もっと甘いのがいいなあ」
「じゃあ、向こうの林の奥にハチの巣があるから、その蜜を飲んだらいいよ。でも、ミツバチ飛行隊に見つからないようにな」
「ああ、わかった」
 ヤドカリは、カブトムシとカタツムリと別れてから、さっそくハチの巣へ向かいました。
 歩いて行くと、林の奥から、ほんのり甘い匂いが漂ってきました。
「いやあ、いい匂いだ。たまんないな」
そう思っていると、空の上からブーン、ブーンと大きな羽音をさせて、ミツバチ飛行隊が飛んできました。
 ヤドカリを見つけると、すぐに急降下してきてマイクロフォンで怒鳴っています。
「こら!、お前、どこからやって来た。ここはおれたちの縄張りだ。これ以上中へ入ったら毒針の機銃掃射するでえ、早くあっちへ行け-!」
 すぐ向こうには美味しいハチ蜜があるのですが、大ケガをしてはなんにもならないので仕方なく退散することにしました。
 また歩いていたとき、そばの枯葉がこそこそ動いて一匹のヘルメットを被ったアリが出てきました。
「おおい、助けてくれや」
 そのアリは、誰かに追われているようで、息を切らせていました。
「それなら、殻の中へ隠れたらいいよ」
 アリは喜んで、すたすたと殻の中にもぐりこみました。
 そのあとから、すぐに5、6匹のこん棒とピストルを携えたアリがやってきました。
みんなきょろきょろあたりを見渡して何かをさがしているようでしたが、やがて、どこかへ行ってしまいました。
「おい、出て来てもいいよ。もう行ってしまったよ」
「いやあ、助かった、ありがとう」
 そのアリは、この土地に駐屯している歩兵部隊の兵隊アリで、軍隊が嫌で逃げて来たのです。そのアリは憲兵アリと警察アリに追われていたのです。
 そのアリから軍隊生活のことをいろいろ聞きました。
 規則が非常に厳しくて、外出も自由に出来ず、銃の手入れが悪いとか、ゲートルの巻き方が悪いとか、敬礼の仕方が悪いとかいって、ぽかぽか頭を殴られるのです。
 上官の命令は絶対で、戦争にでもなったら嫌でも敵のアリを殺さなければいけないのです。
 そのアリは、入隊前はアリ運送会社のトラック運転手でしたが、派遣社員のため低賃金で生活が苦しく、おまけに長時間労働を強いるブラック企業だったのです。残業代もくれない日があり、それだったら安定した給料と退職金がもらえる軍隊に入隊したのです。でも、ここでもずいぶん苦労しました。
 兵隊の仲間にはいろんなアリがいて、美術学校を出た芸術家肌のアリなんか、とても戦場へなんか行って戦えないのですが、戦況が悪くなって召集令状が来て、いやいや兵隊になったのです。召集なんて本当にめちゃくちゃです。ほかにも音楽学校やデザイン学校の学生アリも同じように召集されて酷い目にあいました。
 「こんな組織には二度と入りたくない」とみんないっていました。
 そのアリと仲良くなって、この林の向こうにある小川へ行くことにしました。
 小川のほとりの草むらにはきれいな花がたくさん咲いていて、ぷんぷんと心地良い匂いをさせていました。水の中を覗くと鯉やフナが泳いでいました。そんなのどかな光景をのんびり見ていたときです。突然、すごいことが起きました。
 地面が大きく揺れて、小川の水がジャブン、ジャブンと大きく揺れました。しばらくしてから今度は、
 グラグラグラグラ、ドドドドドドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
 ・・・・・・・ドドドドドドンーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
と大きな音がして大地震が起きたのです。
 小川の水が溢れて、ヤドカリとアリのそばまで水が押し寄せてきました。
「わあ、流されるー!」
 木の枝が流れてきたので、それに必死にしがみつきました。川の流れは速く、どんどん後ろからも枯葉や木の枝が流れてきます。
 川の中央に岩があったので、それによじ登って流れが落ち着くのを待ちました。周りの景色はひどいもので、あちこちの大木が倒れて、道も地割れが出来ています。
「川の水が引くまで、ここでなんとか頑張ろう」
「そうしよう。でもあちこち酷い景色だ。復旧するのにはずいぶん時間がかかりそうだ」
 夜になっても、水はまだ引かないままです。二匹ともずぶぬれだったので、時間がたつにつれて寒くなってきました。
真水をたくさん飲んだヤドカリは気分がよくないのか青い顔をしてぐったりしています。
「風邪をひいたらたいへんだ。この枯葉にくるまりな」
「ありがとう」
ヤドカリは枯葉にくるまると、やがて眠りにつきました。
 二匹はそうやって朝を待ちました。でもヤドカリは気分が悪いうえにすっかり風邪をひいてしまって熱も出ました。
 朝になってから、どこからか大きな声が聞えてきました。
「おおーい、大丈夫かー!いまから助けにいくからなあー!」
 その声に驚いて飛び起きると、向こう岸にアリのレスキュー隊がいました。
「ありがとうー!、すぐに来てくれー」
 兵隊アリが叫ぶと、救命ボートに乗ったアリのレスキュー隊が近づいてきました。ようやく二匹のところへやって来て助けてくれました。
 ヤドカリは、3日ほどアリのレスキュー隊の病院で手当てを受けてから浜へ帰っていきました。勿論、友だちのヤドカリたちに自分の大冒険の話をしてあげました。
 兵隊アリの方は、レスキュー隊の仕事のかっこ良さに感動したのか、すぐにレスキュー隊に入隊して、いまでは楽しくこの隊で働いているそうです。








(未発表童話です)




2017年6月20日火曜日

仙女と村の男

 今は昔、山の淋しい谷間の滝に、ひとりの仙女が暮らしていた。
いつも透きとおった滝の水に打たれて、その美貌を保っていた。この滝の水をあびると、誰でも美しくなれる魔法の水だったのだ。
 ある日、この滝へひとりのやもめ暮らしの村の男がやってきた。ちょうどその時、仙女は水浴びに夢中だった。
「ありゃ、なんて美しい仙女じゃ、おらの嫁っこになってはくれないかな」
 村の男は、すっかり仙女に魅了されてしまったのだ。
 ある日村の男は、両手におみやげをたくさん持って、この谷間の滝へやってきた。仙女への貢ぎ物を持ってきたのだ。
 ところが、滝の所へやってくると、見知らぬひとりのばあさんが、岩の上で大きな口を開けてぐーぐーと昼寝をしていた。 村の男は、早くばあさんがどこかへ行ってくれないかと、林の中で辛抱強く待っていたが、いくら待ってもだめだった。
 翌日、気をいれなおしてまた村の男がやってきた。すると、この前の仙女が、いつものように滝の水に打たれて体を清めていた。村の男は、仙女のほうへ近づいていった。
「美しい仙女さま。どうかおらの嫁っこになってはくれねえか」
 村の男の姿を見て仙女は一瞬驚いたが、男が持ってきた貢ぎ物を見ると、にわかに顔つきが変わった。
「ええ、いいですよ。こんなわたしでもよかったら、どうぞ、あなたのお嫁さんにしてください」
 村の男が、それを聞いて喜んだのはいうまでもなかった。けれど、仙女は男にひとつ条件をつけた。それは、一日に一度、かならずこの滝の水を、桶(おけ)いっぱいくんでくることだった。
「それくらいのことだったら、ちゃんとまもりますわい」
村の男は、軽く返事をすると、仙女を連れて自分の村へ帰って行った。
 村へ着くと、みんな美しい仙女を見て驚きざわめいた。
「あんた、どえらい別嬪(べっぴん)さん見つけてきたの」
そういって、みんなうらやましそうに男にいった。
 ひと月がたち、ふた月がたった。美しいお嫁さんと一緒に暮している村の男は、毎日が幸せそのものだった。毎朝、仕事へ出かけていったついでに、約束どおり谷間の滝へ行って、桶に水をいっぱい入れて持って帰った。
 ところが、ある日のこと、風邪をこじらせた男は仕事へいくことが出来なくなった。しかたなく部屋で眠っていると、どこから上がりこんだのか、ひとりの皺(しわ)だらけのばあさんが部屋の真ん中に座っていた。
「あんた、だれだい。なんでおらの家にいるんだ」
 すると、ばあさんはあきれた様子で、
「何いってんだい。わたしゃ、あんたの嫁だねえか」
 それを聞いて男は、ふと、あの滝で出会ったばあさんのことを思い出した。
「そんじゃ、あんときのばあさんはあんただったのかい」
「うんだ。あんたが、貢ぎ物をたくさんくれて、わたしを嫁さんにしたいっていったくせに何いうとんの。さあ、早よう、風邪さなおして水さ持ってきてくだされや」
 男はそれを聞くと、風邪のことなんかすっかり忘れて、あわてて谷間の滝へ出かけていった。







(つるが児童文学会「がるつ第25号」所収)




2017年6月7日水曜日

空飛ぶじゅうたんに乗って

 ゆうべこんな楽しい夢を観た。
空飛ぶバイクや空飛ぶ自動車を作っている工場へ行って、
「空飛ぶじゅうたんを作ってくれないか」と頼んだら、
「いいよ、作ってあげよう」といってくれた。
値段が高いので、ローンを組んで買うことにした。
 3ヶ月ほどで出来た。じゅうたんの下にプロペラが6つ付いていて、コンピユーター制御で動く。さっそく乗ってみた。
行先を登録してボタンを押すと、プロペラが勢いよく回転し、ふんわりと空中に浮かんだ。それからグーンと上昇した。
「いやあ、すごい。すべて完全自動運転だ」
飛びながら周囲を見下ろすと、道路やビル、マンション、アパート、デパート、公園、橋などがよく見える。
低空飛行で国道の上を飛んでいると、ケンタッキーフライドチキンのお店があったので、着陸場所をこのお店に変更して着地した。6ピースポテトパックとコーラを買ってまたじゅうたんに乗り上昇した。
「山のてっぺんに行って食べようかな」
着陸場所を山に変更して山へ向かった。
 ときどき前方から、空飛ぶバイクや空飛ぶ自動車が飛んできた。みんな今からデパートやスーパーへ買い物に行くのだ。
空飛ぶじゅうたんは珍しいので、みんなじろじろとこっちを観てる。
 町を過ぎてから、田んぼ道の上を飛びながら山へ向かった。
 山には、木の実がたくさんなっていたので、もぎ取って山の上で食べることにした。
やがて頂上が見えて来た。着地して下を見降ろした。
「いやあ、爽快な眺めだ」
感動しながら、食事をはじめた。
 そのとき後ろの林の中の草がごそごそと動いた。
 草から出てきたのは、手のひらくらいの大きさの人間そっくりな小人だった。
「やあ、小人くんを見るのははじめてだ。どうだい、いっしょに食べないか」
「ありがとう。じゃあ、いただくよ」
 食事をしながら、小人くんからいろんな話を聞いた。小人くんの話によると、この山の洞窟の中に小人の国があるので来てみないかということだった。
 小人の国は、科学技術が非常に進んでいて、住民の半分は人口知能ロボットだそうだ。この小人くんの奥さんもロボットだといった。
 食事が終ってから、さっそく小人くんに案内されて洞窟の中へ入って行った。あまり広くない洞窟なので、頭をぶつけないように歩いて行った。洞窟は先へ行くほど狭くなっていたので、四つん這いで進んで行った。
 しばらく行くと、真っ暗だった洞窟の奥が少しずつ明るくなってきた。窮屈で身体が岩に挟まりそうになりながらさらに進むと、洞窟の外が見えてきた。
 カメが甲羅から頭を出すように外を覗き込んでみた。
「うわ、すごいー、未来都市だ!」
 子どもの頃に観たテレビアニメのような街が広がっているのだ。雲を突き抜けているものすごく高いビル、目には見えない透明な道路を走るたくさんの空飛ぶ自動車。大規模なコンサート・ホール、オペラ劇場、広大な敷地の公園の中には500メートル以上も吹き上がる巨大な噴水など壮観だ。
「あなたが住んでいる巨人国とはぜんぜん違う街でしょう」
「うん、いままで観たことがない街だ」
 小人くんに話を聞くと、この山の中にはこの街以外にもたくさんの街があるそうで、全部トンネルでつながっているそうだ。
 小人くんは、ほかにも信じられないようなことをいろいろ教えてくれた。
 先ず、この小人の国の住民の平均寿命は200歳で、中には300歳くらいの人もいる。結婚はたいへん自由で、何歳で結婚しても誰からも文句をいわれない。
 人口知能ロボットと結婚する人も多く、100歳の男性が20歳の女性と結婚する人もいるし、反対に100歳の女性が20歳の男性と結婚することもある。ほとんどの人は平気で手をつないで歩いているけど、人目を気にする人も中にはいるようで、そんな人たちは、イスラムの女性が外出するときに身につける目だけ出してるチャードルみたいな服を着ている。色は黒ではなく、みんな明るいカラフルな色だ。
 生活費は国から全額支給されるので経済的にも困らない。余暇の設備も実に充実している。医療は人口知能ロボットのお医者さんに診てもらうので、すぐに病気を見つけてすぐに治療してくれる。医療費も無料だそうだ。
 子どもたちの教育は自宅でネットで学ぶ。先生は人工知能ロボットで、教え方もたいへん上手い。ネットで友だち申請すると1ヶ月で100~200人くらい出来る。お互いにモニター画面を観ながら、趣味の話や遊びの話をする。一日のほとんどの時間は自宅にいるそうで、気の合った友だちが出来ると、打ち合わせをしてから空飛ぶ自転車に乗って遊びに行くそうだ。
 生活のほとんどのことは人口知能ロボットがやってくれるので便利だといっている。でも、感性や感覚を扱う能力は人間の方がはるかに優れているので、芸能、音楽、美術、映画など、創造性を発揮する仕事は人間が担当している。
 料理もロボットがするが、やっぱり人間が作った料理店の方が流行っているとのことだ。ロボットの作る料理もおいしいが、電気しか食べていないので、本当のおいしい料理の味は出せないといっている。
 政治と法律についても凄いと思った。この小人の国には人間の政治家と法律家、そして人口知能ロボットの政治家と法律家が半分づついて仕事をしている。コンピュータが常に政治と法律を監視しているので、汚職もなければ税金の無駄遣いをするものもいない。住民はすべて同じ階層で平等に暮らしているから富裕層(特権階級)なども存在しない。裁判所も間違った判決を下すこともない。
 いま世界中の巨人国で深刻な問題になっている格差社会も、この小人の国にはまったく存在しないのである。
 あと一つ素晴らしいと思ったのは、この国の住民たちの生き方で、ひとりひとりが自分のペ-スで生きてることだ。巨人国のように「みんな一緒で」のような全体主義的な生き方がなく、ひとりひとりが自分だけの人生を楽しみながら送ることができるのだ。
「私が住んでる巨人国も、将来はこんな街になっていたらいいなあ」
 そう思いながら洞窟から出ることにした。小人の国の街は外からしか観察出来なかったけど、それでもおおいに満足して洞窟から出た。洞窟から出るのにずいぶん苦労したけど、外に出てから小人くんが空飛ぶじゅうたんに乗ってみたいといったので、1時間ほど近くを飛んで別れた。
 家に帰ろうと思ったとき、山で雷が鳴りだした。急いでじゅうたんに乗って飛んで行ったが、途中で稲妻がじゅうたんに命中して、真っ逆さまに地面に向かって落ちて行った。もうだめだと思って目を閉じたとき、ごつんという音で目が覚めた。目を開けてみると自分の部屋のベットの下だった。みんな夢だったのだ。
「ああ、だけどいい夢だったなあ。でも早くあんな素晴らしい未来世界がやって来たらいいなあ。いまのような安月給の暮らしじゃ、この先心配でやっていけないから」
 外では、夢の中と同じように雷が鳴り激しく雨が降っていた。









(未発表童話です)