2016年7月13日水曜日

炭焼き小屋の男

 森の中に、炭焼き小屋がありました。
その小屋には、なまけ者の男が暮していて、毎日仕事もしないで昼寝ばかりしていました。
 ある日その小屋へ、森の狩人がやってきました。
「ちょいとすまんが、水を飲ませてくれないか」
眠っていた男は、めんどくさそうに出てくると、
「水ならかめの中にいくらでも入っているから、さっさと飲んで出ていってくれ」
男はそういって、また、昼寝をはじめてしまいました。
「やれやれ、とんだなまけ者の男だな」
狩人は、水を飲みおわると、さっさと小屋から出ていきました。
 ある日のこと、羊をつれた羊飼いが、小屋のそばを通りかかりました。
「よかった、いいところに炭焼き小屋がある。炭をいくらか売ってもらおう」
羊飼いは、小屋の前にやってくると、男に聞こえるようにいいました。
「炭をすこし売ってくれないか」
男は、眠そうな顔をしながら出てくると、
「炭なら戸口のところに積んであるから、すきなだけ持っていってくれ」
そういうと、男はまた眠ってしまいました。
「やれやれ、愛想の悪い男だな」
羊飼いは、炭をいくらか手に持つと、お金を戸口のところに置いて、さっさと出ていきました。
 その日の夕方のこと、町の市場からお金を盗んできた、ひとりの強盗が、この森の中へ逃げてきました。そして、この炭焼き小屋のところへやってきました。
見ると、小屋の戸口のところにお金が置いてあります。強盗は、戸口のところへやってくると、お金を拾いました。
「いやあ、今日はついてるなあ。この金もいただいていこう」
そういって、にこにこ笑っていると、小屋の中から声が聞こえてきました。
「だれだい、おれの小屋の前で笑っているやつは、昼寝のじゃまじゃないか」
強盗は、その声を聞くと、頭にきてしまいました。
「なんていいぐさだ。ろくに仕事もしないで、昼寝とはいいきなもんだ。おれは、今朝から働きづめだったんだぞ」
いいながら強盗は、小屋の戸をあけて中へ押し入りました。
「やい、起きろ、おれが誰だかわからないのかー!」
強盗は、片手にナイフをちらつかせながらいいました。ところが、眠っていた男は、すこしも怖がる様子がありません。
「うるさいなー。そんな大声出さなくっても、あんたが刃物の押し売りだってことは、ちゃんとわかってるんだ。でも、刃物はいま間に合っているからいらないんだよ。だから、さっさと帰ってくれ。おれは、まだ眠り足りないんだからー」
それを聞いた強盗は、頭に血がのぼってしまいました。
「こ、このおれが、押し売りに見えるのかー!」
すると男は、あいかわらず、うるさそうな顔をしながら、
「とても腕のいい押し売りには見えないねえ。腕のいい押し売りだったら、お客を怒らせたりしないからねえ。あんた、客商売向いてないよ」
強盗は、男の話を聞いているうちに、すっかり呆れてしまって物が言えなくなりました。
「お前みてえな、とんちんかんな男とはなしをしてたら、こっちの頭までおかしくなってしまう」
強盗は、すっかり強盗としてのプライドを傷つけられたあげく、なにも手出しも出来ずに小屋から出ていきました。
 男は静かになると、また、ベッドにもどって昼寝のつづきをはじめました。
やがて、夜になると、お腹が減った男は目をさましました。
「いやあ、今日は、ずいぶんと、昼寝のじゃまをされたから、からだの疲れがすこしも取れなかったなあ。でも、あしたは、せいいっぱい昼寝をして、すっかりからだの疲れを取ることにしよう」
男はいいながら、夕食の準備をはじめました。






(未発表童話です)




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