2016年7月3日日曜日

無人島の一ヶ月間

 その島は、遠い南の海に浮かんでいました。砂ばかりの小島で、生き物は何も住んでいない島でした。
 ある日、嵐がやってきた翌朝、この島に小さなヨットが流れつきました。ヨットには、ひとりの男の人がのっていました。
「命はなんとかたすかったが、これからどうやって生きていこう」
男の人は、砂のうえにすわりこむと、先行きのことをかんがえました。
「ロビンソン・クルーソーみたいに、自給自足の生活をしようかな。だけど、ここは砂ばかりの島だ。食べるものなんて手にはいらない。どうすればいいんだ」
男の人はがっかりして大の字になって寝転んでしまいました。しばらくしたとき、ヨットが無事であることに気づきました。
「そうだ、ヨットの中には釣り道具も、釣り餌もそろっている。それを使って食べ物を海から供給しよう」
男の人は、釣り道具を持ってくると、さっそく魚を釣ることにしました。しばらくすると魚がたくさん釣れました。
「やった、これで今夜のおかずはたすかった」
男の人は、その魚を塩焼きにして食べました。
 翌日も、釣りをしました。
そして、一週間ほど毎日魚ばかり食べました。でも、だんだんあきてきました。
「何か、違うものが食べたいなあ」
けれども、釣れるのは魚ばかりでした。とうとう男の人は神様にお願いしました。
「どうか、もっと違う食べものをお恵みください」
そんなある日、海がまたシケてくるとすごい嵐になりました。
「わあー、たすけて」
男の人は、波にさらわれないように、砂の中にかくれていました。
でも、波は砂の中までしみこんできて、男の人はひっしに砂の中にへばりついていました。
 嵐が去った翌朝、男の人は島の様子を見て驚きました。
ヨットが島の真ん中まで押し流されて、その近くに一頭の鯨が寝そべっていました。もう死んでいるようで息はしていませんでした。
「うわおー、ひさしぶりに、肉が食べられるー」
男の人は、にこにこしながら、鯨のところへ走って行きました。
すると、砂のうえには波が運んできたのか、大量の海の魚があたり一面に散らばっていました。
 かつお、まぐろ、ひらめ、たい、海がめ、トビウオ、わかめ、えび、いか、さざえ、はまぐり、ウニなどの海の幸です。
「ひえー、今夜は、豪華メニューだ」
男の人は、手当たりしだい集めてくると、さっそく火を起こして料理をはじめました。
「うまい、うまいー」
男の人は、その日、お腹いっぱい食べました。そして何日も食べ物には不自由なく暮らせました。
 一ヶ月が過ぎたある日、また雲行きがあやしくなってきました。海の向こうから、また嵐がやってきたのです。
「まただ、この島にはよく嵐がやってくるんだなあ」
しばらくすると、猛烈な風と波が打ち寄せてきました。
男の人は、ヨットの中でぶるぶると震えていました。
しばらくすると、山ほどもある高い波の勢いでヨットがゆれはじめました。
「もう、こんどは、だめかもしれないぞー」
男の人はその夜、じっと神様に祈りつづけました。
 翌朝になると嵐は去っていました。男の人は、外で誰かがさけんでいる声に気づいて目を覚ましました。外に出てみると、ヨットのすぐそばに、大きな貨物船が座礁していました。
「おおい、だいじょうぶか。いつからあんたはこの島にいるんだ」
船員の人が、男の人を見つけていいました。
「はあい、ひと月まえからです」
「へえ、そりゃ、たいしたもんだ。でもよく生きてたな」
船員の人たちは、みんな驚いていました。
そして、男の人は、ひさしぶりに船のお風呂に入らせてもらい、お米のご飯をお腹いっぱい食べさせてもらいました。
船員さんたちは、その間も船を沖へもどす作業をしていました。
「四、五日でなんとか作業は終わるから、おれたちといっしょに早く国へ帰ろうなー」
船員さんたちの話をきいて、男の人は、にっこりとうなずきました。
 そして、四、五日たったある朝、ぶじに作業が終わり、貨物船はこの島から出て行きました。
無事に国へ帰ってきた男の人は、あの島での思い出を一冊の本にまとめて出版しました。
その本はとてもよく売れたので、男の人のもとにはたくさんの収入が入り、その後、男の人はとても裕福に暮らしたということです。






(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)



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