2016年3月16日水曜日

お嫁さんさがし

 音楽が好きな若いお百姓さんが、毎日、鳥たちの歌を聴いてくらしていました。
「ああ、なんて、きれいな鳴き声だ。鳥たちみたいに、じょうずに歌をうたってくれる奥さんはいないかな」
 ある日、町へいくと、広場の井戸で洗濯しながら歌をうたっている女の人がいました。
「お願いします。わたしの奥さんになってくれませんか」
女の人は、びっくりして歌をやめました。
「もうしわけありません。わたし既婚者ですから」
「そうですか。それは残念です。あきらめます」
 お百姓さんが次に向かったのは、教会でした。
教会の中では、ミサをやっていて、みんな賛美歌をうたっていました。なかにとりわけ美しい声の女の人がいました。
「すみませんが、わたしの奥さんになってくれませんか」
歌をうたっていた女の人は、もう少しで間違えるところでした。
「しずかにしてください。いま歌ってる最中ですから」
「そうですか。すみません、あきらめます」
 次にお百姓さんが向かったのは、小学校でした。
教室の中では、女の先生が生徒たちに歌を教えていました。
「すみませんが、わたしの奥さんになってくれませんか」
 女の先生は、びっくりして、
「いま、授業中ですから、出て行ってください」
「そうですか。しつれいしました」
 次に、お百姓さんが向かったのは、町の劇場でした。
劇場の中では、オペラをやっていて、舞台のうえで、プリマドンナが、コロラトゥーラを歌っていました。
お百姓さんがすっかり魅了されて、舞台の最前列のところで、
「お願いしまーす。わたしの奥さんになってくれませんかー!」
と大声でいうと、客席から物が飛んできました。
「失礼しました。出ていきますから」
 劇場から出てきたお百姓さんがしょんぼりしていると、向こうの小鳥屋さんから、きれいな歌声が聴こえてきました。
 店の店頭で歌っていたのは、ひとりの農家の娘さんでした。
よくみると、その娘さんは、お百姓さんの家のすぐ近くに住んでいる娘さんでした。
「お願いします。わたしの奥さんになってくれませんか」
すると、娘さんは、
「鳥のように、わたしを大切にしてくださる方ならいいですよ」
 三日後、お百姓さんは、娘さんとめでたく結婚式をあげました。
そして、毎日、奥さんの歌と小鳥たちの歌を聴いて、いつまでもしあわせにくらしました。






(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)


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