2015年12月24日木曜日

びんぼうなサンタクロース

 クリスマスがやってくるというのに、元気のないサンタクロースがいました。
そのサンタクロースはとてもびんぼうだったので、家の中には、がらくたのおもちゃしかありませんでした。
「こんなわたしがサンタクロースだなんて、子どもたちが知ったらなんて思うだろう。いっそのこと、この仕事をやめてしまおうかな」
 そんなさびしいことを考えたりもしましたが、サンタクロースに生まれたからには、なんとか子どもたちがよろこんでくれるようなクリスマスプレゼントを贈りたいと思っていました。
そこで思いついたのが、じぶんで絵本をつくって、だいすきな子どもたちにプレゼントすることでした。
お金もなく、食べることにも困っているサンタクロースでしたが、子どものころから、じぶんで楽しいおはなしを作ったり、絵を描いたりすることがだいすきだったからです。
 翌日から、さっそく絵本づくりをはじめることにしました。
頭の中には、いろいろなおはなしのアイデアがたくさんつまっていました。
「さて、どのおはなしがいいかな。そうだ」
 サンタクロースが、画用紙に描きはじめたのは、むかし、北欧のある国の高原の村へいったときに思いついたおはなしでした。そのころ、サンタクロースのくらしも豊かだったので、トナカイの引くそりの中には、子どもたちにプレゼントするおもちゃやお菓子がたくさん積まれていました。
 雪道を走っていたとき、向こうのモミの木の林のほうから、きれいな鐘の音が聴こえてきました。それは、この村の教会から聴こえてくるハンドベルの音色でした。
静まり返った雪の世界に、その音色はとてもやさしく美しく響いてきます。教会の中では、ロウソクの明かりがゆらゆらとすてきに燃えています。
 すると、ふしぎなことに、そのハンドベルの音は、雪の妖精たちの住んでいる空のうえまで届きました。雪の妖精たちは、みんなその音に耳をかたむけていました。
「なんてすてきな音色だ。地上にもこんなすてきなものがあるんだな。ぼくたちが住んでいる天国と同じだ。今夜は、みんながぶじに家に帰れるように、雪を降らせないでおこう」
 それまで、ちらちらと雪が降っていましたが、いつのまにか雪はやんで、夜空にはきれいな星が輝いていました。
そんな理由でしょうか。この土地では、毎年、クリスマスの夜だけは、雪がすこしも降りませんでした。だから、遠くからやってきた人たちも、みんな安心して家に帰ることができたのです。
 それはサンタクロースにとっても大変都合のいいことでした。雪の降る土地では、ときどき大雪になって、これまでなんどもそりが雪道で立ち往生して、クリスマスプレゼントを届けられない家があったからです。
 サンタクロースは、ほかにもいくつかのおはなしを考えつきましたが、このおはなしがいちばんクリスマスの日にぴったりなので、このおはなしを絵本にすることにしたのです。絵本の構成は、画用紙の下の方に黒マジックで文章を書いて、上の方に水彩絵の具で絵を描くことにしました。
さいわい、子どものころに、サンタの学校で絵のじょうずな先生から絵の描き方を教わったので、それを思い出しながら描きました。
クリスマスまで、あと一週間でしたが、毎日サンタクロースは、部屋にこもって絵本を作っていました。
昼も夜もぶっ通しで作業をして、できた数はわずかに十五冊だけでしたが、これを子どもたちにプレゼントすることにしたのです。
 クリスマスイヴの晩になりました。家の小屋にかわれているトナカイのそりに乗り込むと、
「さあ、しゅっぱつだー!」
元気よくサンタクロースは、雪の原っぱを走り出しました。
トナカイの首につけた銀色のすずの音が、雪の野山に響き渡ります。
 やがて、最初の町へやってきました。
すっかり夜もふけて、どの家も、電灯を消してみんなぐっすりと眠っていました。
いっけん、玄関のそばにクリスマスツリーが立っている家がありました。
「子どもたちのいる家かな」
サンタクロースが、家の庭へ入って窓から中をのぞいてみると、小さな子どもたちが三人なかよく眠っていました。
 へやの中には、絵本がたくさんあって、本好きな子どもたちだなと思いました。
「おじさんの絵本もよんでくれるかな」
そういってそっと窓を開けると、すきまから絵本を差し入れました。
サンタクロースは、トナカイのそりに乗ると、また走り出しました。
 町のかたすみに、壊れかけた家がありました。びんぼうな家だとわかりました。
家の中には、ふたりの子どもたちが、からだをくっつけて眠っていました。この子どもたちの両親は、生活のために夜も働きに行っているのでした。
「世の中不景気だけど、みんながんばって生きているんだな」
サンタクロースは、まずしいのは自分だけではなくて、世の中の人たちもまたびんぼうなんだと思いました。
そう思いながら、絵本を窓辺においておきました。
 やがて、次の町へやってきました。その家は、幼稚園の保母さんの家でした。家の中に、男の子が眠っていました。
「保母さんの家なら、わたしが作った絵本を幼稚園の子どもたちにも読んでくれるだろう」
サンタクロースも子どものとき、サンタの国の幼稚園で、保母さんに絵本を読んでもらったことを思い出しました。サンタクロースは、幼稚園の子どもたちにも読んでもらえるように、何冊か絵本を余分に窓辺においておきました。
そうやって、いろいろ町をまわっているうちに、むこうの空がすこしずつ明るくなってきました。
「もう朝なのか。さて、あと二冊どこへもっていこうかな」
 走りながら、サンタクロースがやってきたのは、広い田畑の広がる土地でした。いまは、雪ですっかり一面真っ白ですが、夏には大きな甘いももが収穫され、、秋にはりんごが畑の木にたくさん実をつけます。これらのおいしいくだものはこの土地の名産品でした。けれどもお百姓さんたちの顔は暗いのでした。
 ある農家にやってきました。
家の窓から中をのぞいてみると、ふたりの子どもが眠っていました。窓辺には、りんごをたくさん入れたバスケットが置いてあり、そばに手紙がいっしょに入っていました。サンタクロースは窓をそっとあけると、その手紙を読んでみました。

サンタクロースのおじさんへー
 ぼくの農家でとれたおいしいりんごです。食べてください。
今年、千年に一度しか起きないような大きなじしんとつなみにあいました。ぼくたちの農家は大丈夫でしたが、おじいちゃんが暮らしている海の家はつなみで流された所がたくさんあります。
ほうしゃのうの影響もぼくの土地ではありません。だけどみんな農産物がなかなか売れないと困っています。なんともないので、あんしんして食べて下さい。りんごたくさんありますから、サンタの国の人たちにも食べてもらってください。
まさひこ
よしのりよりー

 サンタクロースが、その手紙を読んで、とても驚いたのも無理はありません。それはサンタクロースの人生の中でも一番の驚きでした。
「そうだったのか。そんなことだったら、もっと早いうちから作業をはじめて絵本をたくさんもってくればよかったなあ。海辺に住んでいる子どもたちにもプレゼントすることができたのに。でも来年はかならずたくさん作ってもっていこう」
 そういうと、サンタクロースは、お礼の手紙と絵本を二冊置いておくと、かわりにりんごの入ったバスケットを受け取りました。そして、静かにその農家から出て行きました。
 トナカイの引くそりに乗りながら、サンタクロースは仕事を終えてほっとしました。
「どうにか、ぜんぶまわることができた。子どもたちが喜んでくれたらうれしいなあ」
サンタクロースは、まんぞくそうにいうと、向こうの山を越えて自分の家に帰っていきました。
 朝になりました、絵本をプレゼントされた子どもたちは、みんなとても喜びました。だって、サンタクロース手作りのうつくしい絵本をプレゼントされたからです。幼稚園の保母さんの家でも、さっそく子どもたちに読んできかせてあげました。子どもたちはみんな、すっかりおはなしに魅了されて聞いていました。
 絵本の中には、サンタクロースからの手紙が入っていました。
(わたしはびんぼうなサンタクロースです。だいすきな子どもたちに、高価なおもちゃやお菓子をプレゼントすることができませんが、手作りのうつくしい絵本を作ってみました。どうか読んでみてください)
 それから、りんごをくれた農家の子どもたちには、
(たくさんのりんごをありがとう。友達のサンタさんにもわけてあげます。来年も絵本を作ってもっていきます。また海辺で暮らす子どもたちにも届けますので待っていてください。では来年のクリスマスまでさようなら)
 サンタクロースの手紙にはそんなことが書かれていました。









(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)



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