2015年11月22日日曜日

のんだくれの夢

  ある家に毎日酒ばかり飲んでいる男がいました。奥さんもとうにあいそをつかして実家へ帰っていました。
「ああ、とうとうひとりになれた。ありがたい。これからはだれからももんくをいわれずに酒が飲めるぞ」
 ある晩、酒がなくなったので、酒屋へ買いに行くとき、路地裏でひとりのアラビア人に呼びとめられました。
「どうですか。このランプ買いませんか。たったの千円です。三回こするとどんな夢でもかないますよ」
「ほんとうかい。じゃ、買うよ」
 男は、家へもってかえると、さっそくランプを三回こすってみました。すると、ランプの中から白いけむりがでてくると、大男が現れました。どうじに、見たこともない景色が目の前に現れました。
「ご主人さま。ここはアラビアの国でございます」
「へえ、おどろいた。おまえさんは召し使いなのかい。じゃ、酒が飲めるところへ連れていってくれよ」
すると、白いけむりがでてくると、また景色が変わりました。そこはこの国一番の大きな宮殿の中でした。
 男がおどろいていると、両側の部屋から、顔に白いベールをつけた三人のすごい美人の女たちが食事をもってきました。もちろん、お酒もついていました。
「いやあ、ありがたい。まるで王さまになった気分だ」
 料理をたいらげながら、お酒もがぶがぶ飲みました。
「これがサフラン酒ってやつか。まえから飲んでみたかったんだ」
 すっかり満足した男は、お風呂に入りたくなってきました。
すると、目の前に、ライオンの口からお湯が出ている大きなお風呂の中につかっていました。 
「いやあ、気持ちいい。疲れがとれるよ」
 そういって笑っていると、さっきの美人の女たちがパインジュースを持ってきてくれました。
「いやあ。気が利くな。家のかみさんとは大違いだ」
男は、ついでにヒゲも剃ってもらい、肩ももんでもらいました。 
 お風呂からあがると、夜空の星がキラキラと輝く大きな窓のある寝室で寝ることにしました。
しばらくしたとき、町のほうから、
ドーン、パチ、ドーン、パチと、花火が打ち上げられました。
「なんだ今日はお祭りか。寝ていたらもったいないな」
 男はお祭りへでかけていきました。
 ところが、町へ行ってみるとそれはお祭りではありませんでした。花火だと思っていたのは大砲の音だったのです。
なんでもこの国で革命が起きたというので、王さまや貴族やお金持ちはみんな捕らえられるというのです。
 広場へ行くと、たくさんの市民たちが、こちらのほうへむかって走ってきました。王さまの服を着ていた男は、すぐに捕まってしまいました。
「やめろ、おれは王さまじゃないんだ。今日、日本からやってきた一般庶民だ。誤解しないでくれ」
 けれども、男はすぐに牢屋に放り込まれてしまいました。
市民たちの話によると、この国の極刑は斬首の刑だということです。男は震え上がりました。
 翌日、簡単な裁判が行われました。
裁判は最初から検察側の有利なほうへ進んでいきましたが、判決の決め手になったのは、検察側の三人の証人の供述でした。
その三人は、宮殿でご馳走をしてくれたあの美人の女たちでした。その証言によって、まぎれもなく男は王さまだと判定されてしまいました。
「被告人を死刑にします」
 翌朝、男は処刑場に向かいました。まわりにはたくさんの市民たちが見物にきていました。
しばらくすると、とてつもなくでっかい男がサーベルを持って近づいてきました。
「たすけてくれ。おれは日本からやってきたただの庶民だ。殺される覚えなんかない」
 しかし、男は布切れをかぶせられてひざまずかされました。
「きっとこれは夢だ。おれは悪い夢をみているんだ」
その瞬間、サーベルが高く持ち上げられました。そして振り下ろされる寸前、空から魔法のじゅうたんがいきおいよく飛んできました。
「ご主人さま、これにお乗りください」
 じゅうたんには大男が乗っていました。
間一髪、男はじゅうたんに飛び移ると空のうえに舞い上がりました。
「遅かったじゃないか。もうすこしで首をはねられるとこだったよ」
「もうしわけありません。朝ごはん食べてたところでしたから」
「で、こんどはどこへ連れて行ってくれるんだ」
「へい、いいところがありますよ。ドイツのビアホールです。黒ビールをがぶがぶ飲みながら本場ドイツのおいしいソーセージを食べに行きましょう」
「ああ、それはありがたい。緊張の連続ですっかりのどが渇いてたところだよ。はやく行こう」
 ご主人さまをつれて魔法のじゅうたんは、今度はドイツの国めざして飛んでいきました。




(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)


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