2015年7月22日水曜日

コウノトリのおばさんの手助け

 ある日、コウノトリのおばさんの住む森の家に一通の手紙が届きました。
―このたび、わたくしたちめでたく結婚しました。赤ちゃんを届けてください。どうぞよろしくお願いいたしますー 
お百姓の夫婦よりー
 おばさんは読み終えると、さっそく赤ちゃんたちのいる育児室へいきました。
「あしたは早起きしなくちゃね、手紙をくれた若い夫婦の家は五つ山を越えた所にあるのだから」
 翌朝、コウノトリのおばさんは、赤ちゃんを入れた籠(かご)をもって出かけていきました。
すいすい空を飛んでいくと、やがてむこうの原っぱに、いっけんの家が見えてきました。
「あの家だわ」
 コウノトリのおばさんは、籠の中で眠っている赤ちゃんを起こさないように、しずかに降りていきました。
 その家には、若い新婚さんが暮らしていました。
奥さんは家の中でお掃除の最中、だんなさんは広い畑でトラクターに乗って畑をたがやしていました。
「さてと、玄関のところに置いておきましょう」
 コウノトリのおばさんは、籠の中に、『赤ちゃんを可愛がってあげてください』と手紙を添えておくと、この家から出て行きました。そしてまたすいすいと空をとびながら、じぶんの家に帰っていきました。
 ひと仕事を終えてほっとしたおばさんは、お湯をわかして紅茶を入れていっぷくしました。
だけど、おばさんは、最近よく嘆いていることがあるのでした。
それは、人間の赤ちゃんの依頼がむかしと比べてずいぶん少なくなったからです。
 ある国では若い人たちがぜんぜん結婚しないので、おばさんの仕事も減りました。
昔だったら、日に何回も赤ちゃんを届けにあちらこちらの国へ行く大忙しでしたが、それが最近では目に見えて減ってしまったのです。
 「これじゃ、暇すぎてわたしもはやく老け込んでしまうわね…」
 ある日、おばさんの家に変わった手紙が届きました。
―コウノトリのおばさん、お願いがあります。わたし独り者ですけど赤ちゃんが欲しいのです。届けてくださいー
海の家に住む女性よりー
コウノトリのおばさんは、その手紙を読んで、
「まったくへんな手紙だこと、いまの人は何を考えているのかしら」
とあきれてしまいました。
「でも、いったいだれかしら」
 おばさんは、翌日、その手紙の送りぬしのところへいってみました。
東の山を四つ越えた、海の見える砂浜に小さな家がありました。
その家には、事故で夫を亡くした若い女の人がひとりさびしく暮らしていました。毎日、満たされない生活になやんでいたのです。
それでも子供の頃から好きだった趣味の絵を描いたり、本を読んだりしてさみしさをまぎらわせていました。けれども、やはり子供がいないので生きる気力をすっかりなくしていたのです。
「なんて、かなしそうなようすでしょう」
 おばさんはそれをみると、何とかしてあげようと思いました。
でも、夫のいない女性にこどもを持っていくことはできないのです。
おばさんは、どうすることもできずに帰っていきました。
 ところが、二、三日してから、郵便受けの中にこちらも変わった一通の手紙が入っていました。
―子犬を一匹お願いします。独り者でたいくつしてますからー。どうぞよろしくお願いいたします。
山で暮らす男よりー
 その手紙をくれたのは、山の高原に住む、ちょっと変わった詩人さんでした。
詩作の合間に、庭の畑で野菜を作ったり、野山を歩き回って山ぶどうやあけび、スグリなんかを取ってきてジャムを作ったり、自給自足の生活をしていました。
 仕事場ではノートに詩を書いていて、手作りの詩集を作るのを楽しみにしていました。だけど、いまだに一冊も出版したことがありません。きれいな絵の付いた装丁をしてくれる人がいないからです。
「そうだわ」とコウノトリのおばさんは考えました。
 ある日、おばさんは、こっそり小屋に忍び込むと一篇の詩が書かれた紙切れを持ち出すと、こんな手紙を書いて海辺で暮らす女の人に送ってみました。
―わたしは、山で暮らす無名の詩人です。いつも高原を歩きながら、山の清涼な空気のようなやさしい詩を書いています。ある日、ひさしぶりに山を下りて海辺へ出かけた時、砂浜でひとり絵を描いているあなたを見かけました。海の絵を見てとても感動しました。こんなすてきな絵を描く人だったら、わたしの詩にも美しい挿絵を描いてくれるでしょう。どうかお願いします。わたしの詩に絵を描いてください。
山の詩人よりー
 その手紙を受け取った女の人が非常に驚いたのはいうまでもありません。添えられた一篇の詩を読んでみると、とても気にいったとみえて、その日のうちに絵を描いて、翌日手紙といっしに絵を送りました。
 その手紙を受け取った山の詩人さんも大変びっくりしましたが、添えられてきた絵を見て、自分の詩のイメージとぴったり合うので、もう一篇、女の人に送りました。
 数日後にはまた手紙といっしょに絵が送られてきました。そんなふうに手紙のやりとりが何回も続いたある日、一度山へ遊びにきませんかという詩人さんの言葉にさそわれて、女の人は山の家に出かけていきました。
美しい高原の中にある詩人さんの小屋で、楽しい話をしたり、詩人さん手作りのジャムを付けたパンをごちそうになったり、ふたりで将来、協力して詩と絵を組み合わせた詩画集を出版する計画をしたりしました。
 また、こんどは山の詩人さんが、女の人が暮らす海の家にも遊びにでかけました。そして、おいしい魚料理をごちそうになりながら楽しい話をしました。
 やがて、ふたりは恋仲になり、いっしょに山で暮らすことになりました。山の高原の教会で結婚式をあげて、小屋にすみこみました。
 ある日、コウノトリのおばさんのもとへ、ふたりから手紙が届きました。
―わたくしたち結婚しました。かわいい元気な赤ちゃんを届けてください。どうぞよろしくお願いいたしますー
山の夫婦よりー
 コウノトリのおばさんはそれを読むと、ニッコリ笑いながら、赤ちゃんたちが眠っている育児室へ行き、出掛ける準備をはじめました。
 
 
 
 

(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)

 

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