2017年9月16日土曜日

天国への長い階段

 天寿をまっとうして、天国の長い階段を登って行くふたりのおじいさんがいました。
「やれやれ、天国はずいぶん遠いところにあるんだな」
「ああ、向こうは雲ばかりで、何も見えない」
「どおれ、あの階段のところで一休みしよう」
 ふたりのおじいさんは、その場所へやってくると階段の上に腰を下ろしました。
「ずいぶん登ってきたな。わしらが暮らしていた家がずいぶん小さく見える」
「よくあんな小さな家で長い間暮らしてきたもんだ。きっと天国には、大きくてりっぱな家がたくさんあるに違いない」
「お茶でも飲むか」
「ああ、飲もう」
 持ってきた水筒を取り出して、コップにそそぎました。
「でも、なんだなあ。天国へ行くのにこんな長い階段を登らされるなんて夢にも思っていなかったな」
「そうだなあ、エレベーターかエスカレーターで簡単に行けると思ってたのになあ」
「こんなことだったら、体力のある若い時に死んだ方がよかったな」
「ああ、ジョギングしながらでも登れたなあ」
 一休みがすんでから、またおじいさんたちは階段を登っていきました。
 しばらくしたとき、雲の下から気球が登ってきました。
「ゴンドラの中に人が乗ってるな」
「どこかで見たことがある人だな」
「思い出した。毎日、町内のドブ掃除や草刈りをひとりでやってた人だ」
「そうだったな、誰もやらない善いことを長年やってた人はああして楽に天国へ行けるんだな」
「わしなんか、いつもさぼっていたからなあ」
 すると、あとから別の気球が登ってきました。
「あれは誰だろう」
「ああ、あの人はアフリカへ行って医療の仕事をしていた人だ。エボラ出血熱の治療をしてたくさん現地の人たちを救った人だ」
「おれたちには絶対できないことだなあ」
「世の中で人の役立つことや、何かに貢献した人は、気球で天国まで連れて行ってもらえるんだ。うらやましいな」
「おれたちなんかただ長生きしたってだけだからなあ」
いいながらおじいさんたちは、また階段を登っていきました。だけど天国の門はぜんぜん見えません。
 しばらく行ったとき、階段のあちこちに空き缶と空のパックが捨ててありました。
「誰だい、こんなところにゴミを捨てたやつは」
「罰があたるな、どおれ拾って行こう」
 おじいさんたちが、ゴミを拾っていたとき、下の方から空っぽの気球が登ってきました。
「あれ、ゴンドラには誰も乗ってないぞ」
「おれたちが乗ってもいいのかな」
「ゴミを持って登るのも大変だから、いいさ」
「じゃあ、乗って行こう」
 おじいさんたちはゴンドラに乗ると、階段の上をふわふわと登って行きました。
 
 こちらは雲の上にある天国です。
 水晶のように透き通った御殿の窓から神さまが、おじいさんたちの様子を、さっきからじっとご覧になっていらっしゃいました。
 ふたりが空き缶と空のパックをちゃんと拾うかどうかを。もし拾わなかったら、いつまでも階段を登らせようと思っていたのです。もし空に投げ捨ててしまったら、そのまま地獄へ突き落そうとさえ考えていました。
 でも、階段のゴミをきれいに拾ったのを確認すると、満足そうなお顔をなさりながら、気球が天国へ登って来るのを楽しそうに待っていました。
  







 (未発表童話です) 





2017年9月6日水曜日

何でも作ってくれる工場

 何でも作ってくれる便利な工場がありました。世界中からいろんな注文が入ってきます。
 アラスカからこんな注文がありました。
「食べられる自動車を作ってくれ」
 寒いところなので、チョコレートの自動車はたいへん便利です。
もし大吹雪にあったら、自動車を食べて助けを待つことができるからです。
 山に住んでる人たちからもこんな注文が入ってきました。
「食べられるログハウスを作ってくれ」
山崩れやがけ崩れが起きて山から降りられなくなったとき、家を食べて待つそうです。
 アフリカからは、こんな注文がありました。
「太陽電池を使った冷蔵庫、洗濯機、クーラー、川を渡るカヌーに取り付ける太陽電池式船外機、自動車、耕運機」など。
 マサイ族からは牛を売るので、太陽電池で動く家畜用のトラックを作ってくれと注文もありました。
 ヨーロッパからは、子どもたちのおやつにもなる、
「黒と白のキャンディで作ったオセロゲーム」、「果物や野菜で作った子ども用の楽器」、「飴の野球ボール」、「黒パンで出来たグローブ」、「サトウキビで作ったバット」など様々です。
 クリスマスシーズンになると、こんな注文が殺到します。
「チョコレート、キャンディ、ドロップスで作ったクリスマスツリー」、「スポンジケーキで出来たサンタクロース人形」、「子どもが飲めるノンアルコールシャンパン」など。
 最近では、人口知能ロボットを利用したこんな注文が多くなっています。
「本を読んでくれるロボット」、「似顔絵を描いてくれるロボット」、「手品も見せてくれるロボット」、「宿題をやってくれるロボット」、「子守りをしてくれるロボット」、「危険を知らせてくれるロボット」(フライデーみたいな)など。
 このほかにもいろんな機能を備えたロボットの注文が多くなっています。










(未発表童話です)





2017年8月26日土曜日

電気が流れる黒板

 ネットゲームばかりに夢中になって、ちっとも勉強しない子供がいる学校がありました。
 先生たちは相談して、工場から特注の黒板を取り寄せました。
「この黒板を使えば、クラスの成績は上がるだろう」
 新しく取り付けられた黒板の前で、さっそく授業がはじまりました。
算数の問題が出されて、子どもたちが順番に黒板の前に立って問題を解きました。
 正解だと何も起こらないのですが、間違えてると50ボルトの電流が流れます。
 子供たちはビリビリが怖いので、それからは先生の授業を真面目に聞くようになりました。
 親からも子供たちの成績が上がったので、みんな喜んでいました。
 ところが困ったことが起きました。
 社会科の授業中、先生が歴史年号を書き間違えて100ボルトの電流が流れました。
「いやあ、驚いた」
 またあるときは、国語の授業中、啄木の名前を琢木と書き間違えた先生も100ボルトの電流が流れました。
 頻繁にそんなことが起こるので、先生たちも命がけで授業をしなければならなくなりました。
 工場に問い合わせてみると、
「黒板にはAI(人口知能)が取り付けてあるので、絶対に間違わないようにして下さい」
と言われました。
 どんな小さなミスでも見つけて電気を流すので、先生たちもビクビクしながら、
「前に使ってた黒板の方がよかったなあ」
とみんな後悔していました。


 




(未発表童話です)





2017年8月15日火曜日

空飛ぶラーメン屋

 サラリーマンを辞めて退職金で熱気球を買った男の人が、ラーメン屋の屋台をぶら下げて、風船おじさんのように世界の国を周りました。
 太平洋を渡っていたとき、ある無人島にたちよりました。
日本の刑務所を脱獄してこの島へ逃げて来た囚人が、ヤシの葉っぱで作った小屋にひとりで住んでいました。あるとき空の上を飛んでいく熱気球を見つけて手を振りました。
「おーい、一杯食わせてくれ」
日本食を長い間食べていなかった囚人は、空から降りて来たラーメン屋にさっそく作ってもらいました。お金を払ってくれるのか心配でしたが、ちゃんと払ってくれました。
 ハワイのカウアイ島の上空を飛んでいたとき、岬の岩の上で絵を描いていた人に呼び止められました。
「いつもカップラーメンしか食べていないので、一杯たのむよ」
 その人は定年退職してハワイへ移住し、毎週この岬にやって来て海の風景を描いていました。食べ終わると小さな油絵をくれました。屋台の中に油絵を飾って、空の上に登って行きました。
「ラーメンを売るなら、寒い国の方が儲かるな」
そう決めると進路を北よりに向けました。プロペラと舵の付いた熱気球ですからどこへでも自由に飛んで行けるのです。
 やがてやってきたところは、カナダのバンクーバーでした。
空の上は寒いので、革のジャンパーを買うことにしました。
町の公園に降りて、近くの洋服店でバッファローの革ジャンを買ってきました。ついでに燃料も積み込みました。
 公園に戻ってくると、熱気球の周りにたくさん人が集まっていたので商売をはじめました。ラーメンは飛ぶように売れて、また空へ登って行きました。
 ラジオでカナダ全域の天気予報を聞いてからコロンビア山脈を越えて、広大なカナダの平地を横断していきました。
 寒くて飛んでいられないときは、地上に降りてテントを張りました。毎日手製のラーメンばかりでは飽きるので、川で魚を釣って塩焼きにして食べたりしました。サケを食べに川の近くを歩いている熊を何度か見かけたこともありました。すぐに逃げられるように、気球はいつも膨らませた状態にしておきました。
 カナダを横断中は、いろんな町へ降りて屋台を出したので売れ行きは好調でした。
 一週間後にはカナダ東部まで進んで、前方にハドソン湾が見えてきました。広大な湾の上空を飛んでいると、一隻の釣り船が浮かんでいて手を振っていました。
「おーい、ラーメン三杯頼むよ」
いつもお湯は沸かしてあるので、すぐにラーメンを作って、出前用のケースにラーメンを入れてロープで降ろしました。
 食べ終わると、お礼だといってお金と一緒に釣り上げた大きなサーモンをくれました。
 ハドソン湾を通り過ぎていくと、やがて遠方に北大西洋が見えてきました。進路をそのまま東に向けて海の上をどんどん進んで行きました。天気が次第に悪くなり、海はシケて、風が冷たいので絶えずお湯を沸かして飛びました。熱気球はずいぶん揺れました。
 やがてグリーンランドの南端を通過して、アイスランドが見えてきました。この地点は北緯60度付近です。天気は回復しましたが、上空は風が冷たいので、海面から300メートルの高さで飛びました。途中、シャチやクジラの一群を何度も見ました。
 アイスランドの上空を飛んでいたとき、畑で草刈りをしていた農家の人たちが手を振っていました。
「よかった、お腹が空いてたところなんだ」
 原っぱに降りて、さっそくラーメンを作りました。農家の人たちはみんな屋台の前に立って、出来るのをうれしそうに待っていました。
 食べ終わると鶏を三羽くれました。ちょうど鶏の肉が少なくなっていたので助かりました。
 アイスランドを出た頃から頻繁に咳が出て困ったので、少し南へ行くことにしました。数日後、行く手にスコットランドが見えてきました。
「フィンガルの洞窟」で有名なヘブリディーズ諸島のスタファ島に降りて洞窟を探検に行きました。
 観光客が多かったので、洞窟の近くで商売をしました。ここでもよく売れました。
 ここには三日ほどいて、今度はスコットランドを通過して北海に入り、南に進んでオランダに行きました。オランダでも屋台を出しました。農村地帯を南へ向けて飛んでいくと、風車がたくさんあり、チューリップ畑が遠くまで広がっていました。とても美しい眺めだったので持ってきたデジタルカメラで写真をたくさん撮りました。あまり夢中になっていたので、高度が下がりすぎて、何度も風車にぶつかりそうになりました。
 オランダ国境を越えて、次に行ったのはドイツです。ロマンチック街道へ行く標識を見つけたので、そのまま街道の方へ南に飛んでいきました。ロマンチック街道の周囲には美しい中世の街や古城がたくさん見えました。ブドウ畑もたくさん広がっていて、秋になるとおいしいブドウが熟します。所々にワイン工場もありました。広い原っぱがあったのでそこに降りて屋台を出しました。
 農家でラーメンに入れるタマネギ、キャベツ、麺を作る小麦粉を安く売ってもらったり、養豚場と養鶏場へ行って豚肉、鶏肉、卵を買いました。ついでに本場のドイツワインも買ったりしました。
 街道をさらに南に下って行くと南ドイツアルプスが前方に見えてきました。
(白鳥の城)と呼ばれているノイシュバンシュタイン城の中庭に着地して屋台を出しました。山道を登ってきた観光客たちは屋台を見つけると、お腹が空いていたのか喜んで食べてくれました。
 リヒャルト・シュトラウスが「アルプス交響曲」を作曲した山荘がオーストリアとの国境近くにあるということを聞いてそこへも見学に行きました。
 山にはホテルやレストランがたくさん建っていたので、着陸してレストランに入りました。アコーディオン演奏によるヨーデルが軽やかに流れていて、アルプスの少女ハイジみたいな可愛い服を着た金髪の女性がビールを持ってきてくれました。枝豆が欲しいところでしたが、美味しいソーセージが付いていたのでそれを食べてたくさん飲みました。
 ビールでだいぶ酔っ払ったので、その日は高原の原っぱにテントを張って寝ました。
 翌日はヨーロッパ・アルプスを東へ東へ進み、チェコスロバキアに入ってからコースを北よりに向けてポーランドに行き、ワルシャワにあるショパン記念館とキューリー夫人記念館を見学しました。それからベラルーシを抜けて、ロシアの国へ入りました。首都モスクワに向けて東へ飛んでいきました。
 モスクワにやって来ると、都心部にある「赤の広場」に降りて屋台を出しました。すぐに警官がやってきて、三日間拘置所に入れられました。ソビエト時代だったらスパイ容疑で逮捕されて、シベリアの収容所に送られて木の伐採作業をやらされるところでしたが、拘置所に入れられたのは短期間ですみました。出るときは熱気球も屋台も返してくれました。拘置所から出るとき一緒だった三十代くらいの男が、
「おれにもラーメンを食わしてくれないか」
といったので作ってやりました。
 その男はマクシム・ゴーリキーそっくりな顔をした小説家で、ロシア政府を批判する記事を自分のブログに書いていたので思想犯として取り調べを受けていたのです。これから「拘置所の20日間」という本を書くのだといっていました。別れるとき男が出版した本を何冊かくれました。
 モスクワの食料品店でラーメンの材料を買い込み、ついでに燃料も積み込んでロシアの上空を東へ飛んでいきました。モスクワ中央気象台発表の天気予報によると、今月末にロシア北部で寒気が入って来る予想をしていました。1ヶ月予報ではロシア北部以外の地域で晴れ又は曇りの天気が多くなっていました。
「じゃあ、しばらくこのまま北緯55~60度付近を飛んで行こう。寒気が入ってきたら南へ下がろう」
寒い地域では飛ぶようにラーメンが売れるので、しばらくこの緯度を飛んでいきました。
 十日も過ぎると、だんだん寒くなってきて頻繁に咳が出るようになり、北緯45度付近まで南下して、飛行高度も500メートルで飛びました。
 ロシアを横断中は、ところどころの地域に降りて屋台を出しました。観光名所にも降りて、お土産売り場でマトリョーシカ人形を買ったり、レストランで本場のバラライカの演奏を聴いたりしました。
 モンゴルでは、草原で馬に乗っていた遊牧民たちに呼び止められて、草原に着陸して屋台を出しました。もらった羊の肉でスープをとった羊ラーメンも作りました。テントの中に案内されて馬乳酒を飲みながら、馬風琴の演奏を聴いたり、モンゴルの民族舞踊なども見せてもらいました。
 朝青龍によく似た遊牧民の男が、
「おれたちにも日本のラーメンの作り方を教えてくれないか」
といったので教えてあげました。帰るときに羊の肉をたくさんくれました。
 中国に入ると、空気が汚れていて困りました。北京中央気象台と北京大気汚染監視センター発表の情報では、風が弱くてどこの都市でもスモッグで視界が悪いといっていました。
「仕方ないな。どこも視界が悪いのなら、このまま北京へ行ってみるか」
 進路を北京に向けて飛んでいきました。北京にやってくると市街地の川のそばの空き地に着陸して店を出しました。川はずいぶん汚れていて、動物の骨なんかが流れてきたので、仕方なく町の公園まで飛んで行って着地しました。近くには同業者の店舗もたくさんありましたが、日本のラーメンもよく売れました。
 北京にいる間は、「白蛇伝」の京劇を観に行ったり、ロック・コンサートへ行ったりしました。京劇では座席が楽団のすぐそばだったので頻繁に鳴り響く銅鑼(ドラ)の音で耳が痛かったです。
 ロック・コンサートからの帰りでした。街角で映画女優の章子怡(チャン・ツィイー)によく似た女性がサングラスをかけて歩いていたので、何気なくついて行くと、後ろからやって来た男に財布をすられました、幸い、財布の中には小銭しか入ってなかったのでよかったです。
 北京には一週間ほどいて、それから南京へも行って、台湾を抜けて日本へ帰ってきました。韓国へも行く予定でしたが、ラジオで北朝鮮がまたミサイルを発射したニュースが流れたので南のコースを取ったのです。
 日本へ帰ってきてから売り上げを計算しましたが、途中でずいぶん物を買ったり遊んだりしたので、あまり稼ぎになりませんでした。
 次の旅は、かき氷の屋台をぶら下げて、赤道付近の国やインド、アフリカ、南米などを周る予定です。










(未発表童話です)





2017年8月6日日曜日

豚と蚊取りブタ

 夜になって蚊がふえてきたので、蚊取り線香に火を着けました。
「うへえ、またこの匂いだ、たまんないな」
 そんなことをいってるのはブタの陶器です。
焼き物工場にいたときは、人形や置時計と一緒に、居間の棚の上でのんびり暮らせると思っていたのですが大きな間違いでした。お腹の中に蚊取り線香を吊るされて、おまけに火まで着けられて毎晩嫌な匂いを出すのです。
「こんなだったら、豚小屋の方がましだ」
 ある夜、蚊取りブタは煙を出したまま家から出て行きました。
 あぜ道を歩いていると、カエルが田んぼから飛び出してきました。
「どこへいくんだい」
「仲間がいるところさ」
「じゃあ、この道をまっすぐだ」
 歩いていくと養豚場に着きました。たくさんの豚たちが小屋の中でいびきをかいて眠っていました。
 トイレに行きたくて目を覚ました豚が、煙を出して小屋の中をのぞき込んでいるブタを見つけました。
「そんなところで、何やってんだ」
「仲間に入りたいんだ」
 豚は、眠っていたとき蚊に刺されて困っていたのですが、そのブタがそばに来てからはぜんぜん刺されません。
「中に入れてやってもいいけど、明日になったらソーセージやハムになっちまうぞ」
「えー、ほんと」
「ほんとさ、おれはたぶん来週だろうな。みんなよりも太っていて肉も柔らかいので上質のヒレかロースだな」
 蚊取りブタは震えあがりました。
「そんなのなしだ。すぐに帰ろう」
 そういって小屋から逃げて行きました。家にいたら食べられる心配もありません。
 翌日からは、いつものように家の中でのんびりと煙を出していました。










(未発表童話です)





2017年7月28日金曜日

歩きまわる墓石

 とてもポジティブな墓石でした。お墓に来るまでは山の石切り場で、ギーン、ギーンと石を切る機械の音を聞いたり、林の中から聞えてくる小鳥たちのおしゃべりを聞いたり、賑やかな雰囲気が大好きでした。
 ところが、運ばれてきたのは昼間でもさびしいお墓だったのです。
「おれはこんなところは大嫌いだ」
 真夜中に火の玉が出て来て、お墓の中をのんびり飛んでいるときも、墓石は迷惑そうな顔をして、
「うるさいなあ、あっちへ行ってくれ」
と追っ払ったりしました。
 そんな性格だったので、夜になるとお墓から抜け出して町の中を歩きまわりました。
 タクシーの運転手などは、深夜、歩道を歩いている墓石をよく見かけました。新聞配達や牛乳配達の店員も、信号待ちをしていたとき、陸橋の上をテクテク歩いている墓石を何度も見ました。
 その墓石はこの町の公園やコンサートホールへよく出かけました。山の石切り場にいた友だちに会いに行くのです。
「やあ、元気そうだね。ここは賑やかそうだ」
公園の石碑になった石は、
「日曜日になると人がたくさんやってくるんだ。春はお花見、夏は盆踊りと大変賑やかだ」
 コンサートホールへも行って、
「やあ、元気にやってるかい」
 正面入り口の傍の石碑になった石も懐かしそうに、
「このホールの隣の広場でよく野外コンサートをやってるから、ここでいつも聴いてるんだ」
「おれもこんなところで働きたかったなあ」
 ある夏の夜、となり町で花火大会があるというので観に出かけました。距離が離れているので、鉄道線路の傍をテクテク歩いて行きました。
「あれぇ、誰か歩いてるなあ」
 近づいて行くと、どこかで見たことがある人物でした。
「山下清だー」
 裸の大将そっくりな中年のおじさんがリュックサックを背負って歩いているのです。そのおじさんも毎年花火大会を観に出かけるのでした。向こうも気がついて振り返りました。
「ど、どこからやってきたんだ」
「町のお墓からだ」
「こ、これ食べないか」
そういっておにぎりをくれました。
 リュックサックの中には雨傘、スケッチブック、色エンピツのほかに、途中、農家の畑から盗んできたトマトやキュウリも入っていました。
 おじさんと話をしながら歩いて行くと、やがてとなり町に着きました、町の真ん中に大きな川が流れていて、川の向こう岸に花火大会の会場が見えてきました。
 河岸にはたくさん人が集まっていました。
「も、もうすぐ開始だな」
やがて、ドーン、パチ、ドーン、パチとすごい音がして、花火が打ち上げられました。
おじさんと草の上に座って、トマトやキュウリを食べながら見物しました。
 おじさんは、ときどきスケッチブックを取り出して絵を描いたりしました。
 2時間くらい観て帰ることにしました。
おじさんは家に帰ったら、大きな画用紙に水彩絵具で花火の絵を描くのだといっていました。
 お墓へ戻ってきた墓石は、花火大会のことを仲間の墓石たちに話しながら、
「今度はどこの町の花火大会を観に行こうかな」
と楽しそうに考えていました。










              (オリジナルイラスト)


(未発表童話です)





2017年7月19日水曜日

水晶の洞窟

 どこか知らないとても高い岩山に、水晶で出来た洞窟がありました。その洞窟の水晶は青や紫や緑、赤色をしていてほんとうにきれいでした。満月の夜になると月の光が洞窟の中へ差し込み、キラキラと美しく輝いていました。
 一番奥の暗い場所にいた紫色の水晶は、外の様子を観たことがなく、それどころか太陽の光も月の光も知らなかったのです。
「ああ、この場所はいつも暗くて寒いのだ。一度は外の清涼な空気を吸いたいものだ」
 ある夏のこと、すっかり日が沈んでから、一匹のアゲハチョウが迷子になってこの洞窟の中へ入ってきました。
 アゲハチョウは疲れた様子で、洞窟の中をひらひらと飛んでいましたが、やがて洞窟の奥の紫色の水晶のそばに止まりました。
「やあ、どこから飛んで来たんだ」
「迷ったんだ。この洞窟の近くに小さな花畑があるのだけどわからなくなってしまった」
 水晶は、どこへでも自由に飛んで行ける蝶をうらやましいと思いました。
「おれもいろんな場所へ飛んでいきたいな」
 思っていると、ふしぎなことが起きました。それは水晶の精の仕業でした。身体がふわふわするのです。気がつくと紫色のアゲハチョウに変わっていました。
「驚いた。こんなことがあるなんて」
「一緒に来ないか」
 二匹のアゲハチョウは洞窟から出て行きました。
季節は夏ですが、夜の山はひんやりと寒いのです。
 岩山のところどころに小さな花畑がありました。
「こんな高い所にも花が咲いているんだな」
「もっと下へ行こう」
 森が見えてくると、山の渓流が流れているところまでやってきました。すぐ近くに滝がありました。すごい水しぶきをあげています。
 見たこともない景色に紫色のアゲハチョウはうっとりと眺めていました。
「もっと下まで行ってみよう」
 二匹のアゲハチョウは川を下って行きました。暗い森を抜けるとやがて谷が見えてきました。
 その谷の下に村がありました。まわりは田んぼになっています。
 村にやってきました。田んぼのそばの小川までやってきたときです。田んぼの上をキラキラと何か光って飛んでいました。それはたくさんのホタルでした。
 アゲハチョウを見つけて、一匹のホタルが近づいてきました。
「君たちはどこからやってきた」
「山からさ」
 昼にしか見かけないアゲハチョウを見てホタルは驚きました。
「おれたちについてきなよ」
 ホタルたちのあとをついて行くと、近くの森に入って行きました。沼があり、みんなその上を楽しそうに飛んでいました。
「森のむこうには何があるだろう」
 ホタルたちと別れて森から出て行きました。森を抜けると原っぱがありました。原っぱの真ん中に分校が建っていました。教室の一つの窓から月の光を受けて何かキラキラと光っています。校庭の中へ入って行くと、その光の方へ飛んで行きました。
「わあ、水晶だ」
 その部屋は理科室で、フラスコやビーカーが置いてある棚の上に、いろんな色をした水晶の入った標本箱が置いてありました。
 標本箱の中で水晶たちが何か話しています。
「岩山の水晶たちはいまごろ何をしてるかな」
「おれたちのことはもう忘れてしまったかな」
「山は涼しいだろうなあ」
「また帰ってみたいなあ」 
 アゲハチョウには、そんなことを話をしているように思えました。
やがて、二匹のアゲハチョウは帰ることにしました。森を抜けて高い岩山の方へ飛んでいきました。









(未発表童話です)