2017年6月20日火曜日

仙女と村の男

 今は昔、山の淋しい谷間の滝に、ひとりの仙女が暮らしていた。
いつも透きとおった滝の水に打たれて、その美貌を保っていた。この滝の水をあびると、誰でも美しくなれる魔法の水だったのだ。
 ある日、この滝へひとりのやもめ暮らしの村の男がやってきた。ちょうどその時、仙女は水浴びに夢中だった。
「ありゃ、なんて美しい仙女じゃ、おらの嫁っこになってはくれないかな」
 村の男は、すっかり仙女に魅了されてしまったのだ。
 ある日村の男は、両手におみやげをたくさん持って、この谷間の滝へやってきた。仙女への貢ぎ物を持ってきたのだ。
 ところが、滝の所へやってくると、見知らぬひとりのばあさんが、岩の上で大きな口を開けてぐーぐーと昼寝をしていた。 村の男は、早くばあさんがどこかへ行ってくれないかと、林の中で辛抱強く待っていたが、いくら待ってもだめだった。
 翌日、気をいれなおしてまた村の男がやってきた。すると、この前の仙女が、いつものように滝の水に打たれて体を清めていた。村の男は、仙女のほうへ近づいていった。
「美しい仙女さま。どうかおらの嫁っこになってはくれねえか」
 村の男の姿を見て仙女は一瞬驚いたが、男が持ってきた貢ぎ物を見ると、にわかに顔つきが変わった。
「ええ、いいですよ。こんなわたしでもよかったら、どうぞ、あなたのお嫁さんにしてください」
 村の男が、それを聞いて喜んだのはいうまでもなかった。けれど、仙女は男にひとつ条件をつけた。それは、一日に一度、かならずこの滝の水を、桶(おけ)いっぱいくんでくることだった。
「それくらいのことだったら、ちゃんとまもりますわい」
村の男は、軽く返事をすると、仙女を連れて自分の村へ帰って行った。
 村へ着くと、みんな美しい仙女を見て驚きざわめいた。
「あんた、どえらい別嬪(べっぴん)さん見つけてきたの」
そういって、みんなうらやましそうに男にいった。
 ひと月がたち、ふた月がたった。美しいお嫁さんと一緒に暮している村の男は、毎日が幸せそのものだった。毎朝、仕事へ出かけていったついでに、約束どおり谷間の滝へ行って、桶に水をいっぱい入れて持って帰った。
 ところが、ある日のこと、風邪をこじらせた男は仕事へいくことが出来なくなった。しかたなく部屋で眠っていると、どこから上がりこんだのか、ひとりの皺(しわ)だらけのばあさんが部屋の真ん中に座っていた。
「あんた、だれだい。なんでおらの家にいるんだ」
 すると、ばあさんはあきれた様子で、
「何いってんだい。わたしゃ、あんたの嫁だねえか」
 それを聞いて男は、ふと、あの滝で出会ったばあさんのことを思い出した。
「そんじゃ、あんときのばあさんはあんただったのかい」
「うんだ。あんたが、貢ぎ物をたくさんくれて、わたしを嫁さんにしたいっていったくせに何いうとんの。さあ、早よう、風邪さなおして水さ持ってきてくだされや」
 男はそれを聞くと、風邪のことなんかすっかり忘れて、あわてて谷間の滝へ出かけていった。







(つるが児童文学会「がるつ第25号」所収)




2017年6月7日水曜日

空飛ぶじゅうたんに乗って

 ゆうべこんな楽しい夢を観た。
空飛ぶバイクや空飛ぶ自動車を作っている工場へ行って、
「空飛ぶじゅうたんを作ってくれないか」と頼んだら、
「いいよ、作ってあげよう」といってくれた。
値段が高いので、ローンを組んで買うことにした。
 3ヶ月ほどで出来た。じゅうたんの下にプロペラが6つ付いていて、コンピユーター制御で動く。さっそく乗ってみた。
行先を登録してボタンを押すと、プロペラが勢いよく回転し、ふんわりと空中に浮かんだ。それからグーンと上昇した。
「いやあ、すごい。すべて完全自動運転だ」
飛びながら周囲を見下ろすと、道路やビル、マンション、アパート、デパート、公園、橋などがよく見える。
低空飛行で国道の上を飛んでいると、ケンタッキーフライドチキンのお店があったので、着陸場所をこのお店に変更して着地した。6ピースポテトパックとコーラを買ってまたじゅうたんに乗り上昇した。
「山のてっぺんに行って食べようかな」
着陸場所を山に変更して山へ向かった。
 ときどき前方から、空飛ぶバイクや空飛ぶ自動車が飛んできた。みんな今からデパートやスーパーへ買い物に行くのだ。
空飛ぶじゅうたんは珍しいので、みんなじろじろとこっちを観てる。
 町を過ぎてから、田んぼ道の上を飛びながら山へ向かった。
 山には、木の実がたくさんなっていたので、もぎ取って山の上で食べることにした。
やがて頂上が見えて来た。着地して下を見降ろした。
「いやあ、爽快な眺めだ」
感動しながら、食事をはじめた。
 そのとき後ろの林の中の草がごそごそと動いた。
 草から出てきたのは、手のひらくらいの大きさの人間そっくりな小人だった。
「やあ、小人くんを見るのははじめてだ。どうだい、いっしょに食べないか」
「ありがとう。じゃあ、いただくよ」
 食事をしながら、小人くんからいろんな話を聞いた。小人くんの話によると、この山の洞窟の中に小人の国があるので来てみないかということだった。
 小人の国は、科学技術が非常に進んでいて、住民の半分は人口知能ロボットだそうだ。この小人くんの奥さんもロボットだといった。
 食事が終ってから、さっそく小人くんに案内されて洞窟の中へ入って行った。あまり広くない洞窟なので、頭をぶつけないように歩いて行った。洞窟は先へ行くほど狭くなっていたので、四つん這いで進んで行った。
 しばらく行くと、真っ暗だった洞窟の奥が少しずつ明るくなってきた。窮屈で身体が岩に挟まりそうになりながらさらに進むと、洞窟の外が見えてきた。
 カメが甲羅から頭を出すように外を覗き込んでみた。
「うわ、すごいー、未来都市だ!」
 子どもの頃に観たテレビアニメのような街が広がっているのだ。雲を突き抜けているものすごく高いビル、目には見えない透明な道路を走るたくさんの空飛ぶ自動車。大規模なコンサート・ホール、オペラ劇場、広大な敷地の公園の中には500メートル以上も吹き上がる巨大な噴水など壮観だ。
「あなたが住んでいる巨人国とはぜんぜん違う街でしょう」
「うん、いままで観たことがない街だ」
 小人くんに話を聞くと、この山の中にはこの街以外にもたくさんの街があるそうで、全部トンネルでつながっているそうだ。
 小人くんは、ほかにも信じられないようなことをいろいろ教えてくれた。
 先ず、この小人の国の住民の平均寿命は200歳で、中には300歳くらいの人もいる。結婚はたいへん自由で、何歳で結婚しても誰からも文句をいわれない。
 人口知能ロボットと結婚する人も多く、100歳の男性が20歳の女性と結婚する人もいるし、反対に100歳の女性が20歳の男性と結婚することもある。ほとんどの人は平気で手をつないで歩いているけど、人目を気にする人も中にはいるようで、そんな人たちは、イスラムの女性が外出するときに身につける目だけ出してるチャードルみたいな服を着ている。色は黒ではなく、みんな明るいカラフルな色だ。
 生活費は国から全額支給されるので経済的にも困らない。余暇の設備も実に充実している。医療は人口知能ロボットのお医者さんに診てもらうので、すぐに病気を見つけてすぐに治療してくれる。医療費も無料だそうだ。
 子どもたちの教育は自宅でネットで学ぶ。先生は人工知能ロボットで、教え方もたいへん上手い。ネットで友だち申請すると1ヶ月で100~200人くらい出来る。お互いにモニター画面を観ながら、趣味の話や遊びの話をする。一日のほとんどの時間は自宅にいるそうで、気の合った友だちが出来ると、打ち合わせをしてから空飛ぶ自転車に乗って遊びに行くそうだ。
 生活のほとんどのことは人口知能ロボットがやってくれるので便利だといっている。でも、感性や感覚を扱う能力は人間の方がはるかに優れているので、芸能、音楽、美術、映画など、創造性を発揮する仕事は人間が担当している。
 料理もロボットがするが、やっぱり人間が作った料理店の方が流行っているとのことだ。ロボットの作る料理もおいしいが、電気しか食べていないので、本当のおいしい料理の味は出せないといっている。
 政治と法律についても凄いと思った。この小人の国には人間の政治家と法律家、そして人口知能ロボットの政治家と法律家が半分づついて仕事をしている。コンピュータが常に政治と法律を監視しているので、汚職もなければ税金の無駄遣いをするものもいない。住民はすべて同じ階層で平等に暮らしているから富裕層(特権階級)なども存在しない。裁判所も間違った判決を下すこともない。
 いま世界中の巨人国で深刻な問題になっている格差社会も、この小人の国にはまったく存在しないのである。
 あと一つ素晴らしいと思ったのは、この国の住民たちの生き方で、ひとりひとりが自分のペ-スで生きてることだ。巨人国のように「みんな一緒で」のような全体主義的な生き方がなく、ひとりひとりが自分だけの人生を楽しみながら送ることができるのだ。
「私が住んでる巨人国も、将来はこんな街になっていたらいいなあ」
 そう思いながら洞窟から出ることにした。小人の国の街は外からしか観察出来なかったけど、それでもおおいに満足して洞窟から出た。洞窟から出るのにずいぶん苦労したけど、外に出てから小人くんが空飛ぶじゅうたんに乗ってみたいといったので、1時間ほど近くを飛んで別れた。
 家に帰ろうと思ったとき、山で雷が鳴りだした。急いでじゅうたんに乗って飛んで行ったが、途中で稲妻がじゅうたんに命中して、真っ逆さまに地面に向かって落ちて行った。もうだめだと思って目を閉じたとき、ごつんという音で目が覚めた。目を開けてみると自分の部屋のベットの下だった。みんな夢だったのだ。
「ああ、だけどいい夢だったなあ。でも早くあんな素晴らしい未来世界がやって来たらいいなあ。いまのような安月給の暮らしじゃ、この先心配でやっていけないから」
 外では、夢の中と同じように雷が鳴り激しく雨が降っていた。









(未発表童話です)




2017年5月26日金曜日

ガソリンくれよ

 ケンさんは、タンクローリーの運転手です。毎日、港の製油所から町のガソリンスタンドへ石油をとどけにいくのが仕事です。
けれど、山をひとつ越えた、いっけんのスタンドへ行くのは好きではありませんでした。
「あのスタンドへ行く峠の廃車場には、車たちのゆうれいが出るそうだ」
なかまの運転手たちから、そんなはなしを聞いていたからです。
「困ったな。今日はおれが、あのスタンドへ行かなくちゃいけないんだ」
ケンさんは気がおもくなりました。
 さて、今日の仕事もあと1ヶ所でおわりです。タンクの中へ石油をいっぱい入れると出かけていきました。
 町を通り過ぎて、やがて峠道にさしかかりました。あたりはすっかり暗くなり、ライトをつけて走りました。
「ああ、たのむから今日は出ないでくれよ」
そういいながら、坂道をのぼっていくと、前方に廃車場が見えてきました。
壊れたバスや、サビだらけのダンプカー、タイヤが取れた乗用車などが山のように積まれています。
 ケンさんはアクセルをふかしながらスピードをあげて走りました。峠道は舗装がされていないので、タイヤがくぼみにはまるたびにタンクの中の石油が、ドボーン、ドボーンと不気味な音をたてます。
 しばらくすると、どんより曇った空から、ぽたり、ぽたりと雨がふってきました。
そのときです。気味の悪い声があちこちから聞えてきました。
「ガソリンくれよ・・・」
「おれには軽油をくれよ・・・」
「何年も飲んでないんだから、はやくくれよ・・・」
(やっぱり出たー。車たちのゆうれいだ)
 ケンさんは、おもいっきりアクセルを踏み込むともうスピードで走り出しました。うしろからは、ひっきりなしに車たちの声が聞こえてきます。
 そのうち、雨が激しくなってゴロゴロと雷も鳴り出しました。
ケンさんはむがむちゅうで突っ走りました。
「たのむから、ガソリンくれよ・・・」
「おれには軽油をくれよ・・・」
「何年も飲んでないんだからさ・・・」
やがて、廃車場をぶじに通り過ぎたケンさんは、スピードを上げたまま峠の下り坂をおりていきました。
 向こうの方に、ガソリンスタンドの明かりが見えました。
「よかったー、たすかった」
 ぶじにガソリンスタンドにたどりつくと、さっきのことを従業員にはなしました。
「たいへんでしたね。噂はほんとうだったんですね」
そういって、タンクからガソリンを移し替えようとしたとき、従業員はがっかりした顔でいいました。
「やっぱり廃車場の車たちにガソリンを飲まれてますよ。ごらんなさい」
「なんだって、そんなはずないよ」
 ケンさんが、タンクをみるとおどろきました。タンクのキャップがはずれていたのです。
 ケンさんは、製油所を出るとき、ゆうれいのことばかりが気になって、しっかりとキャップを閉めてなかったのです。 

 
    




(つるが児童文学会「がるつ第29号」所収)





2017年5月14日日曜日

孤島のユーチューバー

 演奏会の動画を無許可でたくさんユーチューブに投稿していた男の人が、肖像権違反で逮捕され、海のはるか向こうの孤島に監禁されました。
「あ~あ、暇だなあ。カメラとパソコンの使用は許されたが、見えるのは海ばかりで何も撮るものがない」
 最初は、海をバックに自分の顔を撮ったり、海をテーマにしたオリジナル絵本を動画にしてアップしていましたが、だんだんと飽きてきました。
「やっぱり面白い動画を撮らないとだめだ」
 そんなある日のこと、水平線の向こうからクレーンを装着した外国船が島のすぐそばまでやってきました。この海域は日本の領海内ですから領海侵犯です。
 翌日からは、船の数も多くなり、さかんにロープを海の中に沈めて何か作業をしていました。
「もしかしてメタンハイドレートの採取をやってんのかなあ」
 次世代エネルギーとして注目されているメタンハイドレートを持っていかれたら日本の資源の大きな損失です。この事実を政府に知らせなければいけません。
「よーし、作業を全部カメラに撮って限定公開で政府に知らせよう」
 孤島で映像を撮られていることなど知らない外国船は、安心したように毎日作業を続けていました。
 数日して、海の向こうから海上保安庁の巡視船と自衛隊の艦船がやってきました。ユーチューブで流れた映像を観たからです。直ちに外国船は拿捕されて領海の外へ追い払われました。
 またあるときです。
 島の近くの海の中から何隻もの潜水艦が浮上してきました。司令塔のハッチが開き、乗員が出て来て双眼鏡で周囲を確認すると、空に向けてミサイルを発射しました。その映像も全部撮ってすぐにアップしました。
 この海域では、たびたびミサイルも飛んでくることがあり、その映像も撮影して次々にアップしていきました。
 ある夜のこと、小型の潜水艦が島のそばまでやってくると海面に姿を現しました。この島にスパイが潜んでいて我が国の訓練の様子を撮影していると疑われたからです。
 潜水艦から工作員が出て来て、ボートに乗って小屋で眠っている男の人を捕まえました。カメラも没収されて、
「やっぱりだ、ここで撮影していたんだな」
 男の人は、潜水艦のところまで連れていかれました。
向こうに着いたら、スパイ容疑で銃殺刑になるのは確実です。なんとか逃げないといけません。 
 タラップを渡っていたとき、思い切って海の中に飛び込みました。水中をもぐりながら潜水艦から離れました。でも、ものすごい勢いで機関銃の弾が水中まで飛んできました。
「ああ、もうだめだー」
 そのとき、海の向こうからビーム状の明るいライトを照らした船が猛スピードで走ってきました。この海域を警備していた海上保安庁の巡視船でした。銃声を聞きつけてやってきたのです。潜水艦はすぐに潜航して逃げて行きました。男の人は無事に助けられたのです。
 事情を説明すると、ある日、政府からメールが届きました。それは男の人の情報提供は非常に高く評価され、その功績によって刑が免除されるそうです。数日後に、男の人は釈放されて懐かしい日本へ帰ることができました。 







 
(未発表童話です)





2017年5月2日火曜日

アリのレスキュー隊

 シャツのボタンがとれたので、針糸で直そうとしたおじいさんでしたが、目が悪くって糸がなかなか通らないのです。
「だめだ、いくらやっても通らない」
そのうち、頭がくらくらしてきました。
「そうだ、虫メガネはどこだったかな」
机の引き出しを開くと入っていました。
 片手に虫メガネと針を持って、糸を通すことにしました。でも部屋の中は暗くていくらやっても通りません。
「明るいところでやらないとだめだ」
 おじいさんは庭に出てしゃがんでやりました。
 さっきよりも穴が大きく見えて、糸も通りそうです。でもなかなか通りません。
そのとき、巨大なアリが目の前に現れました。
「わあ、」
そのはずです、レンズで写ってるアリですから。
「どうしましたか」
 アリはレスキュー隊の隊員でした。
「針に糸が通らないので困っている」
「わかりました、すぐにやりましょう」
アリは、糸を掴むと、針穴にじょうずに通してくれました。
「よかった、ありがとう」
お礼に砂糖をアリにやりました。 
 ある日、トゲが刺さっておじいさんは困りました。
「トゲが小さくて抜けない、どうしよう、そうだ」
庭に出て、アリのレスキュー隊をさがしました。
 しばらくして、草の中からアリが出てきました。
「どうしましたか」
「トゲが刺さって抜けないので困っている」
「じゃあ、やってみましょう」
 アリはおじいさんの指先にちょこんと乗ると、ぐいぐいトゲをひっぱりました。
 グニュグニュ、グニュグニュ、
でも、皮膚にしっかり刺さっているので、容易に抜けません。
 アリは携帯で、たくさん仲間を集めました。
そしてみんなでやりました。
グニュグニュ、グニュグニュ、スッポーーンと大きな音がしてトゲは無事に抜けました。
「よかった」
 お礼に、おじいさんはハチミツをスプーンに入れてアリたちにやりました。







(未発表童話です)




2017年4月21日金曜日

生き返ったシューベルト

 ウィーンのお墓の中で眠っていた作曲家のシューベルトが、棺おけの中で目を覚ましました。
大きなあくびをしながら、
「二百年も眠っていたが、私には気になって仕方がないことがある。「未完成交響曲」のことだ。あの曲を全部完成させないとこれから先も安らかに眠り続けられない」
 ある夜のこと、シューベルトはお墓から抜け出すと、自分の楽譜が保管してある国立博物館へ行きました。
 守衛がいたので、みつからないように展示室へ入り、ガラス・ケースの中から楽譜を取り出しました。
近くの公園へ行って、明るい街燈の下で懐かしい楽譜を眺めました。
「ああ、これだ、書いたときのままだ。あの頃は、歌曲の注文が多くって、残りの楽章を書いてる暇がなかった。でもいまは、時間にしばられることもなく自由に書き加えることが出来るのだ」
 ピアノはないけれど、あの頃も作曲にはほとんどピアノは使ったことがなかったので、その夜一気に残りの楽章を書きあげました。
「頭で描いていたとおりの曲になった。特に4楽章のフィナーレがすばらしい」
 すっかり満足して、シューベルトはまた国立博物館へ行き、ガラス・ケースの中へ楽譜を戻しておきました。
 数日して、新聞に「フランツ・シューベルトの楽譜発見される。音楽界に衝撃のニュース。現在、本物かどうか筆跡鑑定を実施中」という記事が第1面に大きな活字で報道されました。
 クラシックの音楽学者や音楽関係者は、世界が混乱するのを警戒して、新たに見つかった3楽章と4楽章を非公開で演奏をすることにしました。
 視聴に来ていた人たちは本当に驚きました。
「これはたいした曲だ。文句のつけようがない出来栄えだ」
「いったい誰が持っていたのか。どこに隠されていたのだろう」
 演奏を聴いた人たちは、何日もの間、新しく見つかった楽譜について慎重に議論しました。そして世間にこの楽譜を公開するかどうか迷いました。科学検査なども行われましたが、結局、公開されなかったのです。重大な事実があったからです。
 音楽そのものはシューベルトが書いたものと間違いがないと断定されましたが、書かれた用紙の中に一週間前の新聞の朝刊のチラシの裏面が使われていたからです。これでは本物であるはずがありません。
 そのような理由で、「未完成交響曲」は、やっぱり「未完成交響曲の」ままにされることになりました。
 お墓の中で眠っていたシューベルトは、そんなことなどぜんぜん知らないまま、夢の中で、今度は晩年の名作「冬の旅」を直したいと考えていました。
「あの歌曲集は、最後がどうも尻切れトンボだ。主人公にもう少し旅をさせようかな」
そんなことを考えていました。







(未発表童話です)




 

2017年4月11日火曜日

木製ミサイルが飛んできた

 ミサイルの飛行実験ばかりやっている国がありました。もう何千回も実験していたので、とうとう鉄がなくなってしまい、木製のミサイルに変わりました。ところがこのミサイル、ロケットエンジンの熱で燃えてしまって、落ちてくるときは炭になっていました。
 その様子をいつも見ていた山小屋の炭焼きたちが、
「今日はおれの庭に落ちてこないかなあ」
と空を見上げていました。
 木を伐って燃やさなくてもいいので大助かりです。
 ところがある日、ミサイルが燃えてしまってはなんにもならないというので、今度はガラス製のミサイルに変わりました。
がっかりしたのは炭焼きたちです。
「ああ、木製の方がよかったのに」
落ちてくる飴のように溶けてしまったミサイルをつまらなそうに見ていました。








(未発表童話です)